【書評】西井敏恭『デジタルマーケティングで売上の壁を超える方法』

西井敏恭『デジタルマーケティングで売上の壁を超える方法』

を読んだ。

 

野菜通販企業オイシックスCMOによる

EC専業の通販企業向けのデジタルマーケティング入門。

 

口語体、まるでセミナーの登壇時のような軽やかな語り口そのままで読みやすい。

 

マーケティングが「売れる仕組みを作ること」なのは浸透しているけれど、さらに「買いたい気持ちづくり」のキーワードが面白い。

前半の、新規獲得、F2転換、継続率、CRMなど通販ビジネスのイロハの章では専門用語はほとんど出現せず、非常に分かりやすい。

後半のデジタル広告の章は専門用語が多く、まったくの初心者だとくじけそうになってしまうと思う。

 

客単価やクロスセル、アップセルの戦法が語られないのは、オイシックスがサブスクモデルだからなんだろうか。

 

トップがデジタルを理解していない会社は辞めたほうが良い、というのは最上のアドバイス

デジマ部署は他部署と横断的に関わって巻き込んでいくことが大事で大変だけれど、

トップがデジタルに理解がないと予算がつかないので、

デジマのやりやすさは予算によって変化するのは疑いようもない。

 

デジタルマーケティングの世界に飛び込みたい人にとって、

社内調整で出鼻をくじかれたり頭を押さえつけられるより、

のびのびとデジタルを推進していけるような風土の企業に勤めたほうが良いのは、間違いないと思う。

 

大きな字で読みやすい。

 

 

【書評】村山慶輔、やまとごころ編集部『インバウンド対応 実践講座 「エリア目線」で成果を最大化する成長戦略』

 

村山慶輔、やまとごころ編集部

『インバウンド対応 実践講座 「エリア目線」で成果を最大化する成長戦略』

 

を読んだ。

 

地域活性化・生き残りに向け、インバウンド施策に取り組もうとする地方の観光事業者向けの一冊。

内容も事例も充実しているし、具体的に誰をどのように巻き込んで何を進めていけばよいのか6つの観点の課題を解決する一連の流れが示されている。

「外国人観光客は宿に来るのではなく、街にくる」というメッセージ通り、個店ではなくエリア単位での改革を目していて、地方においては完全に正攻法だし納得できる。

集客だけでなく滞在時間を延ばすことや消費額を増やすことへの対策も充実している。 即実践性がある指南書。

 

インバウンドの6つの観点

・お金(キャッシュレスやATM)

・満足度(多言語・通信環境)

・滞在時間を延ばす(泊数を延ばす)

リスク管理(保険や事前対策)

ダイバーシティ(宗教や文化や食事制限や生活習慣)

・インバウンド人材

 

意外にも通信環境が大事なんだよね。

地方のベテラン事業者にはなかなか出てこない発想のように思える。

 

地元の城崎温泉丹波篠山の事例が載っていて、

おっ!と嬉しくなった。

地元だが、城崎温泉が街自体がひとつの宿というコンセプトを持っていたとは知らなんだ。

駅が玄関、足湯もあるしね。

外湯めぐりも宿の中でお風呂を行き来しているという世界観を徹底して

快適に整えたらそりゃ外国人もほっとかないよね。

 

インバウンドマーケティングって興味深い。

もっと知りたい。

【書評】岸見一郎、古賀史健『嫌われる勇気』

岸見一郎、古賀史健『嫌われる勇気』

を読んだ。

 

売れに売れている本で、今更取り上げて恥ずかしいくらい。

 

この本は、アドラーの書いた本でもなく、アドラー心理学を純度高く解説する本でもない。

現代の日本、

青年と哲人の対話がストーリー仕立てで構成されている。

 

登場人物の一人、青年というのがなんとも青臭い感傷と幼い純粋さをもっていて、

恥ずかしくなる。

青年のトラウマである両親からの兄との比較という屈折の要因も、

あまりにもありふれていて、典型的なもがく草食系男子といったところなのかもしれない。

だいたい、哲人を論破しようとして青年はやってくるが、

なんの恨みがあって老人につっかかるんだろう。

実害がない義憤を行動原理にするのは、やめたまえよ。

 

『嫌われる勇気』は目を引くタイトルだよね。

人から嫌われたくない、と人生で一度も思ったことのないわたしにとって

青年の不安はよく分からない。

 

「すべての悩みは対人関係」というのも、

社会的動物の真理をつくよね。

 

過去のせいにして原因に固執するよりも、

今を自分で選び取るのが大切だよね。

 

自己と他者の課題を切り分けて考えるという考えは白眉だね。

他者が自己を好きになったり嫌いになったりするのは他者の問題で、

自己の問題ではない、と割り切れるようになるのはなかなか達観している。

 

少々のことで激怒されるのは相手の問題で、

相手が問題を抱えていたり怒りっぽい人物なだけだ、と

あまり気にしないようにできれば、対人関係のストレスが減るのは間違いない。

 

自分は人生の主人公ではあるが、世界の主人公ではない。

全体の一部として共同体に貢献していると実感することが幸福なこと、という志こそ高邁な心得に思えるね。

目的はなかろうが高潔に生きる人は輝いている。

 

「普通であることの勇気」の章で、青年のコンプレックスが大爆発。

図書館司書の仕事をしている青年は、

今の現状にまったく満足していないし、いつまでも続けられないとすら思っている。

てっきり本が好きで選んだ道だと思っていたけれど、違うんかいな。

両親の反対を押し切ってまで就いた職業でしょう。

 

青年は、普通であり平凡であることを認められないという。

歴史上の有名人の名前まで挙げ連ねて、成功者にならないといけない!という妙なプレッシャーを感じている。

それも、夢に向かって努力している人の代表者のように語りだすのも、

理想と現実があまりにもかけ離れすぎていて、苦しくなる。

歴史上の人物たちは全体の一部として、共同体に大いに貢献したから名を残しているんだよね。

 

章ごとのまとまりがあまりないし、

青年がいきなり妙なタイミングで腹落ちしだすのが、

わたしにはよく分からなかった。

 

【マンガ】はるこ『酒と恋には酔って然るべき』1-4巻

はるこ『酒と恋には酔って然るべき』1~4巻

 

を読んだ。

 

32歳の会社員・松子。

カップ酒で晩酌を楽しむ彼女にナマイキな後輩・今泉と

家呑みをするようになるのだが・・・。

 

グルメ漫画、酒飲み漫画は昨今たくさん存在するけれど、

日本酒に特化した漫画というのも面白い。

 

松子はカップ酒推進派で、

カップ酒をそのままレンチンで燗をつける。

けっこう大胆だよね。

びびって試みれなかったわ。

 

よく呑むなら家でカップ酒なんてまどろっこしいことしないで、

瓶のほうがコスパはいい気がするけれど、

たくさん試せるのがカップ酒のいいところ。

 

今泉がね、いけ好かない

LINEで頻繁に絡んでくるし、家にまで上がり込む。

松子は舞い上がってるけれど、今泉も承知の上で翻弄しているよね。

翻弄しているというか、

4巻で友達になりたいって言ったように、

気があう異性なだけなのかも。

 

おばあちゃん子の愛情みたいなもんかと。

男性にとっておばあちゃんのことが大好きだとして、

おばあちゃんを異性として意識することなんかないよね。そんな感じ。

 

ともかく、

日本酒の豆知識には詳しくなれる。

1巻に登場する『新政 No.6』 X-type

彼氏ができたら、と励みにするほどの良酒みたい。

Xタイプは高級で手が出しにくいけれど、新政のお酒でリーズナブルなものから挑戦したい。瑠璃(ラピスラズリ)とかエクリュのどれがいいのかね。

 

 

2巻に登場する『越乃景虎』の梅酒。

甘い梅酒は普段飲まないけれど、日本酒仕込の梅酒ね。

すっきりと澄んだ梅酒は旨いからね。期待に胸ふくらんじゃう。

こりゃ買いだね。

 

わたしも酒好きだけれど、

日本酒だけでなくウイスキーやワインも好き。

3巻で超定番の獺祭が登場。

 

日本酒の産地は兵庫、京都、広島はすべて西日本で、

兵庫県出身、京都で大学生活を過ごした自分としては馴染み深いよね、日本酒。

それでも新潟の日本酒は格別に思える。

 

 

 

ストーリーと日本酒のバランスがちょうど良いよね。

 

【書評】須藤憲司『ハック思考』

須藤憲司『ハック思考』

 

を読んだ。

 

須藤憲司さんが何者かは存じ上げないけれど、

Twitterで話題になっていたのとNewsPicks界隈の人なんだろうということで購入。

 

横書きで読みやすいけれど、

図解に魅力がない。

 

ハックとは、

物事の視点を変えて人と違った規則性や法則を見つけて

転換効率を上げること。なんのこっちゃ。

言葉の問題で、中身は

先だって読んだ前田裕二『メモの魔力』でファクト→抽象化→転用と表現されていた

コトの神髄とまったく同じように思える。

 

ハック事例と著者のビジネス論が語られるのだけれど、

なかなかにまとまりの悪い本に感じた。

 

ハックのノウハウ習得のために読むと、肩透かしを食らう。

どのようにハック力を高めればいいのか、

ハック思考を高めるための具体的な方法や訓練法についての記述が弱い。

 

ハック事例や有名人の言葉の引用は、

ハックは有意義だということの裏付けに終始しており、

ハック力のある著者のサクセスストーリー、

著者の会社の魅力を伝えるだけが目的のように感じた。

 

ハックを伝授してくれはしない。

伝道師ではないみたい。

 

 

インパクトのある帯には惹きつけられちゃうよね。

 

 

【書評】前田裕二『メモの魔力』

前田裕二『メモの魔力』

 

を読んだ。

 

ここ最近はフレックス出社を多用していて、

朝の情報番組をコーヒー片手にぼうっと見ながら身支度をしています。

出発前の時間は子どもの頃からエキサイティングで、

5分で生死が分かれるようなハラハラが大人になってからも続いていますね。

あわてて、いつも何かを忘れてる。お弁当こさえても忘れてく。

立派な大人になれてなくて、残念だけれどこれが人生。

 

そんなことはさておき、前田裕二。

朝の情報番組でコメンテーターとして出演している青年実業家。

ネットビジネスの一角を担うSHOWROOMの代表。

本番中も、手元の紙に何やら書き付けてたんですよね。有名みたい、メモ魔って。

紙のノートにペンで手書きって、IT長者なのに親近感がわく。

モレスキンのノートが好きらしい。へえ。わたしはペーパーブランクス派だね。

 

NewsPicksから前田流メモが商品化されるらしい。

どりゃどりゃ。見てみたい。

 

前田流メモ術は、

備忘のためのメモ書きではなくて、アイデア出しのための書き付け。

アクションに至る転用のためのメモ。

ファクト(事実)→抽象化→転用というフローで思考がアイデアに落とし込まれるけれど、抽象化っていうからわかりにくい。

抽象化というより、考察とか仮説としたほうが分かりやすい気がする。

 

具体的なメモ術についての記載のあとは、

夢や目標の設定方法についても論じられていてベリー親切。

メモは手段であって目的ではない。メモを使って、なんとするのか。

目的やゴールに向かって、ちゃんとアイデア片手に戦略的に突き進みたいよね。

 

トップダウン型、ボトムアップ型と起業家の分類をしているけれど、

成功者はとにかく行動量が多いから、思考パターンはたいして関係がないように思える。

量が質を生んだ結果に思えて仕方がない。

 

行動量が少なくてビジネスで成功している人なんか皆無なんじゃないか。

いたら教えてほしい。

 

 巻末の怒涛の質問集は、

就活生の自己分析にうってつけ。

徹底的に自分に向き合って、何者かになってほしい。

 

 

【書評】池上彰『日本の戦後を知るための12人』

 池上彰『日本の戦後を知るための12人』

 

を読んだ。

 

映画レビュー、文芸書やアートについての記事は、

これまでのブログで継続して行う予定ですが、

最近は妙にビジネス書とか現実を生き抜くための処世術のような本を読む機会が増えてきたもんだから、はてなで新ブログを開設しました。

やっぱり文化とか美意識とか感性にうったえかける作品と、したたかに現実の世界を生きるための読み物って相容れないものだと思うんですね。

分けてしかるべきなので、読んで頂ける方は異なると思いますが、

こちらでも、どうぞごひいきに!

 

もともとは中田敦彦YouTube大学で取り上げられていた本作。

 

この12人というのがクセモノぞろいで、

上皇陛下と上皇后以外は、ほとんどがワンマンで成り上がった実力者。

 

ジャンルとしては、

政治・経済・宗教・平成の天皇

なかなかに有識者向けのラインナップですが、

少しでも難しい話はかみ砕いて説明する池上さんの手腕が健在で、

なんとも分かりやすく理解できます。

 

もともとは講義・授業の文字起こしなのか、

テレビでおなじみのいつもの池上さんの声で再生されるので、

ゆっくりと確かに頭の中に沁み込んでいく感覚が味わえます。

 

リクルートダイエー、読売グループ、西武グループの成り立ちを

この本で初めて知りました!

リクルートはもともと東大新聞の広告枠を売るところから始まったというのも、

ダイエーがもともとは家業の薬局からスタートしたというのも、

源流を知ってから現在を見つめると、なんだか違った見え方がしないでもないです。

単にビジネスの成功の過程をたどるのではなく、どんな人物でどんな思いがあって事業を成し遂げてきたのかがよく分かり、

大成した実業家はお金儲け以外の社会課題を自分なりに解決したいという志があったのだと、あらためて感じました。

 

取り上げられている12人は、

確かなパワーは認められているものの、悪評や辛辣な意見も目立つ人物で、

非凡というのは仕事においてだけでなく、人格面でも特異な人物だったということなんでしょう。

昭和・平成という時代は特にワンマンのカリスマ経営者のファミリービジネスが主流の時代だったのだとよく分かります。

 

石原慎太郎に関してはもう、

数々の差別的発言にしても作家としての作品『完全な遊戯』にしても

モラルが欠如した人物という先入観がありますが、

それを池上さんは天真爛漫という言葉で表現しているでしょう。

すごいペーソス。

この語りで、彼の人権感覚に対する評価は一切高まらなかった、とだけ言いたいですね。

世間は石原慎太郎の人権意識の低さを甘く見すぎですよ。

 

池上さんの上品だけれど冷ややかな視点で、

人物評が締めくくられていてドキッとしますね。ふふ。

 

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