【書評】池上彰『日本の戦後を知るための12人』
池上彰『日本の戦後を知るための12人』
を読んだ。
映画レビュー、文芸書やアートについての記事は、
これまでのブログで継続して行う予定ですが、
最近は妙にビジネス書とか現実を生き抜くための処世術のような本を読む機会が増えてきたもんだから、はてなで新ブログを開設しました。
やっぱり文化とか美意識とか感性にうったえかける作品と、したたかに現実の世界を生きるための読み物って相容れないものだと思うんですね。
分けてしかるべきなので、読んで頂ける方は異なると思いますが、
こちらでも、どうぞごひいきに!
もともとは中田敦彦のYouTube大学で取り上げられていた本作。
この12人というのがクセモノぞろいで、
上皇陛下と上皇后以外は、ほとんどがワンマンで成り上がった実力者。
ジャンルとしては、
政治・経済・宗教・平成の天皇で
なかなかに有識者向けのラインナップですが、
少しでも難しい話はかみ砕いて説明する池上さんの手腕が健在で、
なんとも分かりやすく理解できます。
もともとは講義・授業の文字起こしなのか、
テレビでおなじみのいつもの池上さんの声で再生されるので、
ゆっくりと確かに頭の中に沁み込んでいく感覚が味わえます。
リクルート、ダイエー、読売グループ、西武グループの成り立ちを
この本で初めて知りました!
リクルートはもともと東大新聞の広告枠を売るところから始まったというのも、
ダイエーがもともとは家業の薬局からスタートしたというのも、
源流を知ってから現在を見つめると、なんだか違った見え方がしないでもないです。
単にビジネスの成功の過程をたどるのではなく、どんな人物でどんな思いがあって事業を成し遂げてきたのかがよく分かり、
大成した実業家はお金儲け以外の社会課題を自分なりに解決したいという志があったのだと、あらためて感じました。
取り上げられている12人は、
確かなパワーは認められているものの、悪評や辛辣な意見も目立つ人物で、
非凡というのは仕事においてだけでなく、人格面でも特異な人物だったということなんでしょう。
昭和・平成という時代は特にワンマンのカリスマ経営者のファミリービジネスが主流の時代だったのだとよく分かります。
石原慎太郎に関してはもう、
数々の差別的発言にしても作家としての作品『完全な遊戯』にしても
モラルが欠如した人物という先入観がありますが、
それを池上さんは天真爛漫という言葉で表現しているでしょう。
すごいペーソス。
この語りで、彼の人権感覚に対する評価は一切高まらなかった、とだけ言いたいですね。
世間は石原慎太郎の人権意識の低さを甘く見すぎですよ。
池上さんの上品だけれど冷ややかな視点で、
人物評が締めくくられていてドキッとしますね。ふふ。
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