007 ノー・タイム・トゥ・ダイ
『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』 @109シネマズ二子玉川 2021.10.02
を観た。
前作『スペクター』から続く、
もともとの日本公開予定である2020年4月から1年半!
ついに!ついに!公開を迎えた大作。
109シネマズ二子玉川は初利用だったけれど、スクリーンが大きくて迫力満点でよかった。
緊急事態宣言が開けても未だに緊張状態が続き、
ステイホームでおうちでのサブスク映画習慣が増え、
コロナ以前とはすっかり映画体験が変わってしまった現在においても、劇場は満員だった。
以下、ネタバレを含みます。
本作は223分という長編でありながら一切冗長さを感じることがなく、
ダニエル・クレイグ版ボンドの完結編として非の打ち所がない。
サム・メンデス監督の前二作『スカイフォール』『スペクター』に見受けられる芸術的で繊細な映像美はなかったけれど、
視覚と聴覚のぐらつき、登場人物の身体感覚を体感させるような表現でアクションの魅力が加速していた。
気付いたらいきなり体がふっとばされ前後不覚の身体状態、
ワイヤーで移動してくるんと天地がひっくり返る瞬間の世界のぐらつき等、随所に没入感が得られる演出がある。
本作は一話完結型作品ではなく、
設定や登場人物たちも世界観の何もかもが『スペクター』から続編なので、
前作を観ずに本作を観ると面白さは半減すると思う。
そもそもボンドとマドレーヌの関係はただの恋人同士ではなく何なんや、とか
なんでボンドは引退してるんや、とか
ジュディ・デンチの写真が飾られた額縁は何なんや、とか
冒頭で絡んでくるブロフェルドやスペクター一味ってそもそも何なんや、とか
だいたい流れで想像はできるけど、ご新規さんを想定された作りにはなっていない。
ただ、ストーリーの進行、物語の鍵となる「ヘラクレス」についてはかなり分かりやすい。
DNAで特定の個人を指定して感染させることのできる細菌。
細菌テロは『女王陛下の007』から出てきていたし、ある種SFのオハコの兵器。
非の打ち所がないとは言ったけれど、少し気になる点もある。
「ヘラクレス」は特定の個人とDNAの近い血縁者にも感染するという説明があって、
ボンドが「ブロフェルドと実の兄弟ならお前もやばかったな」みたいなコメントを受けているのに
実の娘であるマドレーヌは感染していないよね。
・・・血縁関係はないんだったっけ。
いや、母親殺害のエピソードは
ブロフェルドと家族であることを色濃く象徴したエピソードだったように思うけど。
うーん、あとちょいちょい気になる点はあるけど野暮なので小文字で!
ヴェスパーの墓の襲撃で有無を言わさず、死闘を繰り広げたマドレーヌをあっさりと裏切者だとみなすのは
ストーリーの進行上仕方がないとはいえ変な感じがしたな。ヴェスパーの呪縛はもう解けてるでしょう、だからお参りにきたんでしょう。
あと「ヘラクレス」でスペクターを一掃したシーンでは、オブルチェフはスペクターのみを始末したけれど、
元同僚とはいえボンドを除外する意味はないでしょう。なんでかばったのか分からない。どこにつこうが邪魔になってくるのがボンドなのに。
スペクター集会で獄中にいるにも関わらずブロフェルドはいったいどうやって指示を出していたのかも謎。内通者がいるという布石でもなかった。
冒頭で描かれる幼少期のマドレーヌのエピソード、
能面の男の恐怖の煽り方はジャパニーズホラーゲームの演出みたい。
能面の男=サフィンのアジトのモデルは、モネの『睡蓮』があったこと、建物の雰囲気や中庭を見ても
直島にある地中美術館じゃないかな、と思うし随所に日本が感じられた。
サフィン以外にも、自宅で料理をするQが酒屋の前掛けしてたしね。
サフィン役のラミ・マレックは『ボヘミアン・ラプソディー』か!と、鑑賞後に知った。
まったく異なる役で気がつかなかった。
ボンドとマドレーヌがゆったりとした甘いひと時を過ごした翌日の朝に
敵に襲撃を受ける、という5年前も現在も変わらない、敵の気の遣い方に脱帽。
映画のロマンチシズムを守ってくれてサンキュー!
始まりの物語、『カジノ・ロワイヤル』の忘れられない女性・ヴェスパーと向き合うシーンから、
最後は愛する人と自分の子どもを守り、スパイではなく一人の男性として最期を迎えるなんて
感極まる。
引退後に復帰したのはマドレーヌのためだしね、そもそも。
今回の闘いはミッションではなく、個人的な闘いだった。
ダニエル・クレイグ版の第一弾『カジノ・ロワイヤル』で始まり、
『ノー・タイム・トゥ・ダイ』で閉じる。始まりと終わりを描いた初めてのボンド。
デヴィット・ビアンキ、関美和訳『13歳からの金融入門』
デヴィット・ビアンキ、関美和訳『13歳からの金融入門』
を読んだ。
アメリカを舞台に、カネの価値の位置付けから決済方法、株や債券や資産や税金の概要をかいつまんで教えてくれる金融入門書。
アメリカに暮らす13歳の少年へ語りかけるような口調だけれど、
日本の読者も意識した構成になっている。
横書きとシンプルで気取らないイラストがいい。
最初は入門編すぎるな~とタカを括っていても、章が進むにつれ難しい内容になってくるから大人も飽きさせない。
新聞やニュースで耳にする、
一言で説明できない金融単語の意味を大きい流れの中で理解できる名著。
レバレッジって何?PERって何?という
何度説明文を読んでもイマイチ理解できない
疑問をわかりやすーく教えてくれる。
東京証券取引所って世界第三位なんだ、とか
日本のGDPについてとか、世界における日本での金融市場の存在感についても
あらためて認識した。
身近な金融リテラシーから、
投資トップグループの世界までのピンキリの説明が
13歳という人生これから!な次世代に向けた構成でいいな。
【書評】西井敏恭『サブスクリプションで売上の壁を超える方法』
西井敏恭『サブスクリプションで売上の壁を超える方法』
を読んだ。
サブスクリプションビジネスの
定義や可能性、KPIや事業計画についてまとめられた一冊。
同著者の前作『デジタルマーケティングで売上の壁を超える』では
マーケティングの定義は「売れる仕組み作り」と「買いたい気持ち作り」とされていたけれど、
サブスクリプションは「使い続けたい気持ち作り」みたい。
サブスクリプションは単に月額制でコンテンツを発信するのではなく、
それによって新しい成功体験を味わってもらうことが大事みたい。
例えば音楽提供のサブスクなら、
音楽聞き放題によって、新しい音楽に出会えるという体験価値を提供している。
P:Painを発見
T:Trialで仮説検証
C:Core Valueづくり
P:Profitability(事業計画)の確定
P:Product Market Fit
「プトクップ」と読むらしい
明日には忘れていそうな上記のサブスクリプションのフレームワークも、
事業計画を立てる際には必ず押さえなければいけないポイントみたい。
サブスクは生活を加速させ、変容させるよね。
あらゆる可能性が少額の月額投資で手に入るんだもん。
ユーザー視点ではメリットが多い分、事業者側はPLのシミュレーションが大切なのは、言うまでもないことで、
革新的なサブスクサービスほどスタートアップの企業が多いから、企業体力と資金調達力が生き残りの肝になるのかな。
住まいのサブスクサービスは初期投資が多そうで、
生活拠点を気軽に変えられるライフスタイルかつ同価値観の人とつながりたい人・・・ってユーザーをどのくらいのボリュームで試算しているのか、いつ採算が合う算段なのか気になるね。
今後の広がりが楽しみなサービスも紹介されている。
暮らしの提案と、成功体験のアップデート。
サブスク継続のための企業努力は、ユーザーにとってはありがたや。
サブスクのKPIは「会員数」「稼働率」「単価」の3つで、
稼働率が低い=解約寸前の顧客としてCRM施策を打っていくのも、
なるほどな、と納得。
LTVの試算表も載っていて、とても親切。
【書評】『ファクトフルネス』ハンス・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド著、上杉周作、関美和訳
ハンス・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド著、上杉周作、関美和訳
『ファクトフルネス』
を読んだ。
分厚くイカツい見た目だけれど、驚くほど読みやすい一冊。
カジュアルで気取らない日本語訳が小気味いい。
誤解されがちな世界の現実についてデータを参照しながら現実を伝え、
無意味な不安を拭い去ってくれる。
世界は日々改善されており、
一部の印象的な事柄に注目しがちだが、
全体のボリュームを考えたほうがいいという意見には納得。
センセーショナルな事ばかり取り上げるメディアに毒されているのと、
いかに先入観が沁み込んでいるか感じる。
先進国と途上国の分断のイメージは数十年前のもので、
日々世界は更新されていることを改めて認識させてくれるね。
そんなことも知らんのか!?と驚愕されるかもしれないけれど、
アメリカ10億人、ヨーロッパ10億人、アフリカ10億人、アジア40億人と
アジアの人口ボリュームが圧倒的に抜けていることも初めて知った!
中国が人口大国であることは隣国だし
日本で暮らす人なら知らない人のほうが少ないけれど、
アジアが世界の人口の半数以上というのは驚いた。
しかも2100年にはアフリカとアジアに世界人口の8割が暮らすらしい。
たまげるわ。
昨今のSDGsのスローガンが「あちらの」世界の深刻さがよほど大規模かと思うけれど、規模の現実はこうなんだ!と冷静になれる。
もちろん地球人がみな等しく、
人間としての尊厳が守られる生活を送られるように社会課題を解決することが
大切だということは分かっているけれど。
テロで殺される人の数よりも酔っ払いに殺される人の数のほうが多いというのも
当たり前のようでいてやはり、
センセーショナルな出来事に不安を感じやすい気持ちはあるよ。
ファクトフルネスって何なの?という問いに、
一言で言い切るのではなく各ルールで決定づけているところが特徴。
ルールは、p.325の図解が説明してくれる。
劉潤『事例でわかる 新・小売革命』
劉潤『事例でわかる 新・小売革命』
を読んだ。
EC先進国である中国のニューリテールの解説と展望を語る一冊。ECが活況の中国ですら、まだ小売のEC率は15%程度なんだね。
15%といっても、国内人口が驚異的だからマーケット規模としては十分なように思えるね。
小売の売上=人流量×成約率×客単価×リピート率。
オンとオフの対立ではなく、それぞれのメリットを活用する戦略の数々。
オフラインでの試着や目検などの体験は購買行動には不可欠で、
「販売しない店舗」が今後も増えていくだろうという見込み。
販売しない店舗の運営は、メーカー側というのも現在の流れだよね。
リアル店舗のショールーム化は、即時性の低い商品ではもはや当たり前になってきていると感じるね。
実感として、
服や靴は店頭でチェックして、ECで購入することが多くなってきてるもんね。
服をその場で買って、一日中持ち歩いて家まで持ち帰るのも面倒になってきた今日この頃。
即時性、提供スピードの問題は、
事例でもあるようにあらかじめ購買予測をして近場まで商品を輸送しておいたり
ドローンなど配送法の工夫、テクノロジーの進化で今後もますます不便を感じないようになるのだろうな~とは思う。
人が物を探すオフラインの購買行動から、物が人を探すオンラインの購買行動という見方は興味深い。
ターゲティング広告なんかまさに人毎に商品訴求しているもんね。
コロナ前に書かれた一冊で、小売動向がウィズコロナの時代にどう変容するか気になる。
ショールームでの体験価値も、5Gの時代は動画で補う部分も多いのだろうな。
【書評】ジェフ・サザーランド、石垣賀子訳『スクラム 仕事が4倍速くなる "世界標準"のチーム戦術』
ジェフ・サザーランド、石垣賀子訳
『スクラム 仕事が4倍速くなる "世界標準"のチーム戦術』
を読んだ。
仕事の進め方だけでなく組織作りや生き方にまで通じる「スクラム」をグローバルかつ多様な例から解説した「スクラム」ガイド。
個人任せの犯人探しはやめて共通の目的意識を持つ小さなチームで、スプリント(フィードバックのサイクル)計画ミーティングにてベロシティ(チームの作業スピード)を踏まえてbacklog(やり残し)管理し、計画を進めていくのが大枠の流れ。
プロジェクト発足時の地図よりも、現実に沿って細かいサイクルでPDCAサイクルを回していく。 プロジェクトマネジメントに特に役立つ一冊。
スプリントという細かな見直しの期日を作ることで、
課題や変更点なども都度浮き彫りになるし、期日が迫っていることでスピード感も増す。
チームの集中力と緊張感を維持し、
効率的に物事を進められるフレームワークだと思う。
グローバルな事例の中には
トヨタ生産方式や合気道など日本の事例も含まれていて親近感もわくね。
backlogがツール名のみならず、
やり残しという意味を持つことを初めて知った!
【書評】光本勇介『実験思考』
光本勇介『実験思考』
を読んだ。
即現金化アプリ「CASH」の起業家・光本勇介によって、
起業家マインドと「CASH」立ち上げの経緯、未来予想が綴られている。
編集者・箕輪厚介企画のNewspick×幻冬舎の刊行で、
サクセスストーリー+若者のやる気を鼓舞させるような内容という
お約束の傾向に付け加え、新たなビジネスアイデアが盛りだくさんな一冊。
即現金化アプリ「CASH」の存在をこの本で初めて知った。
買い取るモノの査定金額の根拠、実際に売れるかどうか、という点で不安視されそうなビジネスを収益化したのがすごい。
IT業界人に感化されず、市井の人々がいかに少額の資金繰りに苦労しているか、
そのニーズを市場創造に役立てているという視点は当たり前のようでいて
IT長者と横並びで付き合う立場では、難しいんだろうに関心する。
複数のビジネスアイデアが盛りだくさんで、
アイデア開示を惜しまないのも余裕に感じる。
実験の実行力(資金力や覚悟や行動力や人脈)がある人間が限られているから、
先手必勝で公開しているのかな。
実験し続けるには何よりも、勇気と覚悟が必要だよね。